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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)141号 判決

兵庫県尼崎市杭瀬南新町3丁目2番1号

原告

大同鋼板株式会社

代表者代表取締役

永野辰雄

訴訟代理人弁護士

牛田利治

白波瀬文夫

岩谷敏昭

同弁理士

石田長七

西川惠清

森厚夫

大阪市西淀川区百島2丁目1番10号

被告

ダイト工業株式会社

代表者代表取締役

澤田實

訴訟代理人弁護士

筒井豊

同弁理士

鈴江孝一

鈴江正二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第13941号事件について、平成6年4月21日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「断熱材の製造方法」とする特許第1510581号発明(昭和56年9月14日出願、昭和63年12月7日出願公告、平成元年8月9日設定登録。以下、「本件発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成3年7月9日、原告を被請求人として、本件発明の特許を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第13941号事件として審理し、平成6年4月21日、「特許第1510581号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年5月25日、原告に送達された。

2  本件発明の要旨

上の金属フープ材と下の金属フープ材とを連続して供給すると共に上乃至下の金属フープ材の少なくとも一方に凸脈を連続して形成し、上記上下の金属フープ材を上下に対向する上下のコンベアにて搬送すると共に凸脈を形成した方の金属フープ材を搬送するコンベアの外周に凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する支持凸部を着脱自在に設け、上下に対向して搬送される上下の金属フープ材間に発泡性材料を注入して発泡させて上下の金属フープ材間の凸脈の裏面側を含む全域に発泡体を充填させる断熱材の製造方法。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である米国特許第4、147、582号明細書(審決甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例発明1」という。)及び米国特許第3、689、348号明細書(審決甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用例発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであって、特許法123条1項1号に該当するので無効であるとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件発明の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定、本件発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定は、いずれも認め、その余は争う。

審決は、本件発明と引用例発明1との相違点の判断において、引用例発明2の技術課題を誤認し(取消事由1)、本件発明の作用効果が予測し難いものでないと誤って判断した(取消事由2)結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(引用例発明2の技術課題の誤認)

従来から、連続して供給される上下の金属フープ材のうち一方に凸脈を形成し、これを上下のコンベアによって一定の間隙を保ちながら搬送すると共に、上下の金属フープ材間に発泡性材料を注入発泡させて上下の金属フープ材間に発泡体を形成することが知られていた。

しかし、凸脈を形成した方の金属フープ材は、凸脈の頂部のみがコンベアによって支持されるだけなので、発泡性材料の発泡圧によって凸脈の側部の谷底部分がふくらんで変形してしまうという問題があった。特に、凸脈の高さが高い場合や、金属フープ材が薄い場合には、いっそう変形が激しくなり、商品価値がなくなってしまうものであった。また、いわゆる成形型として、凸脈の頂部だけでなく凸脈の周囲全体を支持する方法も知られていたが、金属フープ材は連続して供給されるので、この方法では凸脈を擦って傷をつけてしまうおそれがあり、しかも、厚み及び谷底の幅の異なる断熱材を簡単に製造できないという問題があった。

本件発明は、これらの問題を解決することを技術課題とする製造方法の発明である。

これに対し、引用例2には、下向き突出リブを形成した下側のプレート1のリブ間の自由空間を満たすようにベルト21が配置された構成が開示されているが、下側のプレート1には、その凹凸1a、1b、1cにストリップ6が被覆されており、この状態で下側のプレート1と上部表面材11との間に発泡材料13を充填させるものであるから、下側のプレート1のリブの裏側には発泡材料13が充填されることはない。

したがって、引用例発明2は、プロファイルを持つプレートを採用していたとしても、ストリップにより凹みを覆って平坦にすることによって、2枚の平坦な表面材とプレート間に発泡材料を均一に充填させて、複合板を連続的に製造するものであって、本件発明の「発泡性材料の発泡圧によって凸脈の側部の谷底部分がふくらんで変形することを防止する」という技術課題及び「いわゆる成形型において凸脈を擦って傷をつけることを防止する」という技術課題がいずれも存在しないことが明らかであり、これに反する審決の認定(審決書11頁15行~12頁6行)は、誤りである。

また、これらの技術課題を欠く引用例発明2の手段を引用例発明1に転用することにより本件発明を想到することは、当業者にとって容易でないから、審決の「甲第2号証(注、引用例2)から、この種技術において凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する手段が知られていたことが認められるから、このような手段を甲第1号証(注、引用例1)に転用することは当業者であれば容易に想到し得ることであると認めるのが相当である。」(審決書11頁9~14行)との判断もまた誤りである。

2  取消事由2(本件発明の作用効果の予測困難性)

本件発明は、上記の技術課題を解決し、大きな凸脈を形成した金属フープ材であっても、凸脈の側方の谷底部分が発泡圧によって変形したりせず、正確な形状の断熱材を連続して形成でき、また、使用する金属フープ材の厚みを薄くしても谷底部分において発泡圧によって変形することがなく、この結果薄い金属フープ材が使用できてコストダウンになるとの効果を奏するものである。しかも、支持凸部は、凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持するので、支持凸部が凸脈を擦って傷をつけることもない。さらに、支持凸部は、一方のみのコンベアに着脱自在に設けているので、支持凸部を簡単に取り外すことができ、したがって、支持凸部の高さ及び谷底を支持する部分の幅が異なる支持凸部に変更することにより、厚み及び谷底の幅の異なる断熱材を簡単に製造でき、製品の多様化に対応できるという作用効果を奏するものである。

これに対し、引用例1には、トレイン40が脱着可能ブロック41、41a、43、44によりシート2とシート3の外形状と一致するように形成されて、コンベア24、26に取り付けられ、このトレイン40でシート2とシート3を上下左右から保持して膨張プラスチック材料を所定位置に保持している構成が開示されており、この構成は、いわば上型と下型とからなる成形型の構成といえる。

したがって、引用例発明1においては、膨張プラスチック材料を所定位置に保持するために、シート3の凸脈の側部の谷底だけでなく、シート2とシート3を上下左右から保持しているものであり、トレイン40の取り付けに手間を要するだけでなく、断熱パネルAの厚みを調整するには、トレイン40全体を上下コンベア24、26から取り外さなければならず、しかも、脱着可能ブロック43がシート3の凸脈部分に接触して傷をつけてしまうおそれがあるから、本件発明の上記作用効果を有するものではない。

また、引用例発明2は、前記のとおり、ストリップにより凹みを覆って平坦にすることによって、2枚の平坦な表面材とプレート間に発泡材料を充填させて複合板を連続的に製造するものであり、発泡圧による凸脈の側部の谷底部分の変形を防止するものではないから、同発明もまた本件発明の上記作用効果を有するものではない。

したがって、本件発明の有する上記の作用効果は、引用例発明1及び2には存在しない独自のものであるから、審決の、「本件特許発明における効果が特に予測し難いものであるということもできない。」(審決書12頁7~8行)との判断は、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本件発明が、「発泡性材料の発泡圧によって凸脈の側部の谷底部分がふくらんで変形することを防止する」という技術課題及び「いわゆる成形型において凸脈を擦って傷をつけることを防止する」という技術課題の解決方法を提示するものであることは認める。

原告は、引用例発明2には本件発明の技術課題がないと主張するけれども、本来、その点を問題とするまでもなく、引用例発明2から、凸脈を有する断熱材パネルの搬送手段として、凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する手段が公知であれば、その手段を引用例発明1に転用することは、当業者であれば容易に想到できることである。

しかも、引用例2(甲第4号証)には、「第7図はプロファイル又は一定のしぼを有する面の表面の歪みを回避することを可能にする装置の断面図である」(同号証明細書2欄27~29行)こと、「ベルト21間のスペースあけは、第7図に示されるように、プレート1のリブ間の自由空間をそれらベルトが満たすように配置される」(同3欄35~37行)こと、このようなベルトに関して「エンドレスベルトはまた発泡材料の成形・規制装置への通過中それによって及ぼされる圧力に対抗するために、垂直方向にも充分な剛性を有していなければならない」(同3欄24~27行)ことが記載されており、これらの記載によれば、引用例発明2のプロファイルも表面の歪みを回避することを可能にし、発泡圧に対抗すべきものであって、本件発明と同じ部分の変形防止を意図しこれを解決していると認められるのであるから、本件発明と同様の技術的課題及び解決手段が開示されていると認められる。

したがって、原告の上記主張は理由がなく、審決の「凸脈を有する断熱材パネルの搬送手段として上述の手段が公知であれば十分であるばかりでなく、甲第2号証(注、引用例2)における凸脈部分には発泡性材料が充填されないものであっても、甲第2号証(注、前同)には前記認定のように、第7図のプロファイルも表面の歪みを回避することを可能にし、発泡圧に対抗すべきものであることが記載されており、本件特許発明と同じ部分の変形防止を意図しているのであるから、本件特許発明と同様の技術的課題が開示されているというべきである。」(審決書11頁16行~12頁6行)との認定に誤りはない。

2  取消事由2について

原告が主張する本件発明の有する作用効果のうち、金属フープ材の凸脈の側方の谷底部分が発泡材料の発泡圧によって変形することがないという点については、上記1で述べたように、引用例発明2においても、エンドレスベルトが、発泡材料の成形、規制装置への通過中の圧力に対抗するために、垂直方向にも十分な剛性を有するものであるから、本件発明と同様の作用効果を有するものである。

また、本件発明の支持凸部が凸脈を擦って傷をつけることがないという点についても、引用例発明2の支持凸部は、本件発明と同様に、凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持するという構成を採用するのであるから、本件発明と同様の作用効果を有することが明らかである。

さらに、本件発明の支持凸部がコンベアに着脱自在に設けられているので、簡単に取り外すことができ、支持凸部の高さ及び谷底を支持する部分の幅が異なる支持凸部に変更することにより、厚み及び谷底の幅の異なる断熱材を簡単に製造できるという点については、引用例1(甲第3号証)に、「前記コンベヤーの少なくとも1方はそれらの間隔がパネルの厚みによって調節されるように調整可能であり」(同号証明細書5欄30~33行)、「前記接合ユニットはまた前記コンベヤー上にシートの成形表面に作用するための保持部分を有しており、前記保持部分はシートと係合する形状を持つトレインを形成するための1連の脱着可能なブロックから成っており」(同5欄38~42行)との記載があるから、引用例発明1には、厚み及び谷底の幅の異なる断熱材を簡単に製造できる手段が開示されている。

以上のことからすると、本件発明の作用効果は、引用例発明1及び2において達成されていると解されるから、原告の上記主張には理由がなく、審決の「本件特許発明における効果が特に予測し難いものであるということもできない。」(審決書12頁7~8行)との判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

本件発明と引用例発明1との一致点及び相違点が審決認定のとおりであること、本件発明が「発泡性材料の発泡圧によって凸脈の側部の谷底部分がふくらんで変形することを防止する」という技術課題及び「いわゆる成形型において凸脈を擦って傷をつけることを防止する」という技術課題の解決方法を提示するものであることは、当事者間に争いがない。

1  取消事由1(引用例発明2の技術課題の誤認)について

引用例2に、審決認定のとおり、「その第7図を見ると、第7図はプロファイル又は一定のしぼを有する面の表面の歪みを回避することを可能にする装置の断面図(明細書第2欄第27~29行目)であること、ベルト21間のスペースあけは、第7図に示されるようにプレート1のリブ間の自由空間をそれらベルトが満たすように配置される(明細書第3欄第32~37行目参照)こと、このようなベルトに関して『……エンドレスベルトはまた発泡材料の成形、規制装置への通過中それによって及ぼされる圧力に対抗するために、垂直方向にも十分な剛性を有していなければならない。』(明細書第3欄第15~30行目参照)ことが記載されている」(審決書7頁3~16行)ことは、当事者間に争いがない。

また、引用例2(甲第4号証)には、「本発明は特に発泡材芯と、場合によってプロファイル(型彫模様)又は一定のしぼ(型押模様)を付与された2枚の表面材とから作られる複合板の連続製造方法ならびに装置に関する。」(同号証訳文1頁4~6行)、「本発明はまた、発泡が2枚の平坦なシートまたはプレート間でみられるのと同じ状態で得られることを可能にするものである。」(同1頁末行~2頁1行)、「第2図から分かるように、図示されたプレート1のプロファイルはプレート1に関して縦方向に延在する凹凸又は波状起伏の形の、間隔を隔てた縦方向に延在する突起又はリブ1a、1b、1cからなっている。上記ストリップ6はプレート1に、凹凸1a、1b、1cを被覆する位置に適用し、固着される。」(同2頁32~末行)、「本発明を実施する他の方法によれば、所定のプロファイル又はしぼを持つ面の表面の歪みを避けるために、エンドレスベルトは2本のリブまたは波状起伏の間の空間に置かれるが、このベルトの厚みはそのリブまたは波の深さよりも僅かに小さい。」(同3頁24~26行)と記載されている。

以上の記載及び引用例2の図面第2図、第7図によれば、引用例発明2は、2枚の表面材の間に発泡材を注入して複合板を連続的に製造するものであり、下側のプレートの凹凸にはストリップが被覆されて平坦な状態が形成され、この下側のプレートと上部表面材との間にのみ発泡材が充填されるが、充填された発泡材の圧力によってプレートの表面に歪みが生ずるのを避けるために、垂直方向にも十分な剛性を有するエンドレスベルトが、プレートのリブ間の自由空間を満たすように配置され、凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持するものであると認められる。

そうすると、引用例発明2においては、「発泡性材料の発泡圧によって凸脈の側部の谷底部分がふくらんで変形することを防止する」ことと、「支持凸部であるエンドレスベルトが、凸脈を擦って傷をつけることがない」ことという技術課題及びその解決方法が開示されており、これらの技術課題及び解決方法は、前示当事者間に争いがない本件発明の技術課題及び解決方法と共通するものであると認められる。

したがって、審決における、引用例2の「第7図のプロファイルも表面の歪みを回避することを可能にし、発泡圧に対抗すべきものであることが記載されており、本件特許発明と同じ部分の変形防止を意図しているのであるから、本件特許発明と同様の技術的課題が開示されているというべきものである。」(審決書12頁1~6行)との判断に誤りはなく、原告の上記主張には理由がない。

しかも、「従来、発泡材を注入するための凸脈を形成した上下の金属フープ材の搬送は、凸脈の頂部のみをコンベアで支持する方法が普通に実施されていた」ことは、当事者間に争いがないから、このことも考慮すると、引用例発明2に開示された凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する手段を、引用例発明1に転用することは、当業者にとって容易に想到することができたものであるといわなければならず、この点に関する審決の判断(審決書11頁9~14行)に誤りはない。

2  取消事由2(本件発明の作用効果の予測困難性)について

引用例発明1における、金属シートの全面を保持するために下のコンベアに取り付けられた脱着可能ブロックが、本件発明における、金属フープ材の凸脈の頂部のみを支持するために、コンベアに着脱自在に設けられた支持凸部に相当することは、当事者間に争いがない。

また、引用例1(甲第3号証)には、特許請求の範囲第1項に、「・・・前記コンベヤーの少なくとも1方はそれらの間隔がパネルの厚みによって調節されるように調整可能であり、・・・前記接合ユニットはまた前記コンベヤー上にシートの成形表面に作用するための保持部分を有しており、前記保持部分はシートと係合する形状を持つトレインを形成するための1連の脱着可能なブロックから成っており・・・以上から成るプレハブ断熱パネルの連続製造装置」(同号証訳文5頁26~末行)と記載され、「コンベヤーリンクの各々は・・・、トレイン(輪列)を形成するための1連の脱着可能なブロック=対応シートと同じ形状を持つべきである=を取付けることのできる支持板と係合している。これらトレインは、市場の需要に応じて設計されるシートの形状に依って変わる種々の形状の他のトレインと、横連結を通じて素早く交換可能である。」(同1頁末行~2頁4行)、「トレイン40は板35に色々な脱着可能ブロック41、41a、43、44を、それらが接触するシートの形状と一致する外形状になるように、取り付けることによって形成される。」(同4頁21~22行)と記載されている。

これらの記載によれば、引用例発明1は、金属シートの形状に対応した脱着可能なブロックからなるトレインが、コンベヤー上に形成されており、これらのブロックを取り外して交換することにより、パネルの厚みやシートの形状の変化に応じた調整を素早く行い、市場の需要に応じた断熱パネルを連続的に製造することが可能とされているものと認められる。そうすると、引用例発明1の有するこのような作用効果は、本件明細書(甲第2号証)に記載されている「支持凸部は一方のみのコンベアに着脱自在に設けているので、支持凸部を簡単に取り外すことができ、従つて、支持凸部の高さ及び谷底を支持する部分の幅が異なる支持凸部に変更することにより厚み及び谷底の幅の異なる断熱材を簡単に製造でき、製品の多様化に対応できる」(同号証4頁左欄24行~右欄4行)という本件発明の作用効果と共通するものであることは、明らかである。

また、引用例発明2は、前記のとおり、支持凸部であるエンドレスベルトによって、発泡性材料の発泡圧による凸脈の側部の谷底部分の変形を防止するとともに、その支持凸部が凸脈とはすきまを形成することにより、凸脈を擦って傷をつけることがないという作用効果を達成したものであるから、これらの作用効果は、本件明細書(甲第2号証)に記載された「大きな凸脈を形成した金属フープ材であつても、凸脈の側方の谷底が支持凸部によつて連続して支持されるものであつて、谷底部分が発泡圧によつて変形したりせず、・・・また使用する金属フープ材の厚みを薄くしても谷底部分において発泡圧で変形することがなく、・・・しかも支持凸部は凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持するので、支持凸部が凸脈を擦つて傷を付けることもなく」(同号証4頁左欄13~24行)という本件発明の作用効果と共通するものと認められる。

このように、本件発明の作用効果は、引用例発明1及び2と共通するものであるから、審決の「本件特許発明における効果が特に予測し難いものであるということもできない。」(審決書12頁7~8行)との判断に誤りはない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決の認定判断は正当であって、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成3年審判第13941号

審決

平成3年審判第13941号

大阪市西淀川区百島2丁目1番10号

請求人 ダイト工業株式会社

大阪府大阪市北区神山町8番1号 梅田辰巳ビル

代理人弁理士 鈴江孝一

大阪府大阪市北区神山町8番1号 梅田辰巳ビル 鈴江孝一特許事務所

代理人弁理士 鈴江正二

大阪府大阪市北区西天満2丁目5番10号 山上筒井法律特許事務所

代理人弁理士 筒井豊

兵庫県尼崎市杭瀬南新町3丁目2番1号

被請求人 大同鋼板株式会社

大阪府大阪市北区堂島1丁目6番16号 毎日大阪会館北館5階 石田特許事務所

代理人弁理士 石田長七

大阪府大阪市北区堂島1丁目6番16号 毎日大阪会館北館5階 石田特許事務所

代理人弁理士 西川惠清

大阪府大阪市北区堂島1丁目6番16号 毎日大阪会館北館5階 石田特許事務所

代理人弁理士 森厚夫

上記当事者間の特許第1510581号発明「断熱材の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

特許第1510581号発明の特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

【1】手続きの経緯

本件特許第1510581号発明は、昭和56年9月14日に特願昭56-144899号として出願され、昭和63年12月7日に特公昭63-63367号として出願公告、平成元年8月9日に特許権の設定の登録がなされたものであるところ、平成3年7月9日付けで特許無効の審判請求を受けたものであるが、本件特許については、別途、平成4年審判第12159号として訂正審判が請求され、平成6年4月4日付けで訂正を認める旨の審決がなされて、この審決が確定しているものである。

【2】本件特許発明の要旨

本件特許第1510581号に係る発明(以下、単に「本件特許発明」という。)の要旨は、前記、確定した訂正審判によって訂正された明細書及び図面(平成5年9月24日発行の特許審判請求公告第768号は誤載があったため、平成5年12月24日発行の特許公報の訂正により訂正された明細書及び図面をいう。)の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「上の金属フープ材と下の金属フープ材とを連続して供給すると共に上乃至下の金属フープ材の少なくとも一方に凸脈を連続して形成し、上記上下の金属フープ材を上下に対向する上下のコンベアにて搬送すると共に凸脈を形成した方の金属フープ材を搬送するコンベアの外周に凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する支持凸部を着脱自在に設け、上下に対向して搬送される上下の金属フープ材間に発泡性材料を注入して発泡させて上下の金属フープ材間の凸脈の裏面側を含む全域に発泡体を充填させる断熱材の製造方法。」

【3】請求人の主張

これに対して、請求人は、訂正された本件特許発明に関して、本件特許の出願前頒布された刊行物である、米国特許第4、147、582号明細書(以下、甲第1号証という。)及び米国特許第3、689、348号明細書(以下、甲第2号証という)を提出し、本件特許発明は、これら甲第1、2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許は、特許法第123第1項第1号の規定に該当し、無効とされるべきものであると主張している。

【4】甲第1、2号証の記載

甲第1号証には、「下の金属シートと上の金属シート用供給ステーション;前記シートを成形するための圧延機列;前記シートを加熱するための炉;前記シート間に膨張性プラスチック材料を注入するための装置;シート同志を接合しかつ膨張したプラスチック材料を所定位置に保持するための接合ユニット、前記接合ユニットは圧延機により成形されたシート用の2基の型上、下コンベヤーを有し、前記コンベヤーの少なくとも一方はそれらの間隔がパネルの厚みによって調整されるように調整可能であり、前記コンベヤーは水平軸の回りに回転するローラの回りに連続回転するように配置されており、前記リンク型コンベヤーの各リンクは各隣接リンクに縦方向に装着された、横に延在するばち形状の中空連結部分を含み、前記接合ユニットはまた前記コンベヤー上にシートの成形表面に作用するための保持部分を有しており、前記保持部分はシートと係合する形状を持つトレインを形成するための1連の脱着可能なブロックから成っており、前記接合ユニットはまた垂直軸の回りに回転するローラにより連続的に駆動されるよう配置された2基のチエーン装着加圧ユニットを含みパネルに抗して横に押すための支持部分を含んでいるものであり、ばち形状部分とかみ合い関係に係合可能であり、それの上に一連の脱着可能なブロックが嵌合しうる、支持板;および完成パネルを切断するためのカッター;の以上からなるプレハブ断熱パネル連続製造装置(クレーム1参照)に関する発明が記載され、その第17図を参照すると、前記金属シートは凸脈を形成したものを包含するものであること、ブロックの形状は対応シートと同じ形状を持つべきであること(明細書第1欄第56~58行目参照)も記載されている。

また、甲第2号証には、「縦方向凹凸を形成している一連の溝を備えた剛性表面材からなる外表面を有する複合板を連続的に製造する方法において、前記方法は下記工程;複合板の第1剛性表面材を形成する前記表面材を線状かつ連続的に移動させる工程;前記剛性表面材の縦方向凹凸をなす前記溝の上に被覆ストリップを巻出し、前記剛性表面材の縦方向をなす溝の各側の山部に、平坦な表面を形成するために前記被覆ストリップを接着させる工程;前記平坦な表面に、前記平坦な表面と接着する発泡性重合体液体薬品を適用する工程;第2連続ストリップを巻出して、それを前記発泡性重合体液体薬品の発泡中に圧力によって前記発泡性重合体液体薬品に適用する工程であって、前記発泡性重合体液体薬品は前記第2連続ストリップに対し接着性であり、前記第2連続ストリップは複合板の第2外表面材を形成しているものである工程;および所定の厚みの複合板を形成するために、連続的圧力を前記第1、第2外表面材の外表面に及ぼす工程からなる方法(クレーム1参照)に関する発明が記載され、その第7図を見ると、第7図はプロファイル又は一定のしぼを有する面の表面の歪みを回避することを可能にする装置の断面図(明細書第2欄第27~29行目)であること、ベルト21間のスペースあけは、第7図に示されるようにプレート1のリブ間の自由空間をそれらベルトが満たすように配置される(明細書第3欄第32~37行目参照)こと、このようなベルトに関して「……エンドレスベルトはまた発泡材料の成形、規制装置への通過中それによって及ぼされる圧力に対抗するために、垂直方向にも十分な剛性を有していなければならない。」(明細書第3欄第15~30行目参照)ことが記載されているものと認められる。

【5】被請求人の主張

これに対して被請求人は、甲第1、2号証には「凸脈を形成した方の金属フープ材を搬送するコンベアの外周に凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する支持凸部を着脱自在に設け、上下に対向して搬送される上下の金属フープ材間に発泡性材料を注入して発泡させて上下の金属フープ材間の凸脈の裏面側を含む全域に発泡体を充填させる」構成について記載されていない、すなわち、甲第1号証には「トレイン40は着脱可能ブロック41、41a、43、44によりシート2とシート3の外形状と一致するようにして形成され、このトレイン40内でシート2とシート3を上下左右から保持して膨張プラスチック材料を所定位置に保持している。」構成が開示され、シート3の凸脈の谷底だけでなく、シート2とシート3を上下左右から保持しているものであるし、甲第2号証には、下向き突出リブを形成した下側のプレート1のリブ間の自由空間を満たすようにベルト21が配置された構成が開示されており、この「ベルト21」は本願発明の「支持凸部」に相当するものであるが、下側のプレート1にはその凹凸1a、1b、1cにストリップ6が被覆されているものであり、この状態で下側のプレート1と上部表面材111との間に発泡材料13を充填させるものであって下側のプレート1のリブ裏面には発泡材料13は充填されないから、本願発明の「発泡材料の発泡圧によって凸脈の側部の谷底部分がふくらんで変形してしまう」ことを防止するという技術的課題が存在しないものであるから、本件特許発明は甲第1、2号証から容易に発明することは不可能であると主張している。

【6】当審の判断

本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とを比較すると、本件特許発明の上の金属フープ材、下の金属フープ材は甲第1号証の下の金属シートと上の金属シートに、凸脈を連続して形成した点は圧延機列によって第17図に参照される凸脈を形成した点に、上下のコンベァにて搬送する点は上、下のコンベヤーを用いる点に、支持凸部を着脱自在にもうける点は脱着可能なブロックから成る点に、上下の金属フープ材間に発泡性材料を注入して発泡させる点はシート間に膨張性プラスチック材料を注入する点に、凸脈の裏面側を含む全域に発泡体を充填させる点は第17図に示される点に、それぞれ相当するものと認められ、断熱材を連続的に製造する点についても同じであるから、結局、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とは、本件特許発明の凸脈を形成した方の金属フープ材を搬送するコンベアの外周に着脱自在に設けた支持凸部が「凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する」のに対して、甲第1号証に記載された発明の着脱可能なブロック(支持凸部)が金属シートの凸脈の谷底だけでなく、対応するシートと同じ形状であって全面を保持するものである点でのみ相違しているものと認めることができる。

この相違点について検討するに、甲第1号証においてブロックが対応するシートと同じ形状であるという説明は、必ずしも技術的に他の形状のものでは実施できないという意味ではなく、発泡圧を受けるためにはシートと同じ形状が好ましいという技術的に当然のことを述べたものと認められる(甲第1号証の明細書第3欄第34~36行目参照)。このことは、本件特許明細書にも記載されているように、従来、発泡材料を注入するための凸脈を形成した上下の金属フープ材の搬送は、凸脈の頂部のみをコンベアで支持する方法が普通に実施されていたことからもいえることである。したがって、発泡圧によるシートの変形の許容範囲であれば、当業者であれば支持凸部については種々の変形が考えられるものと認められるところ、甲第2号証から、この種技術において凸脈とはすきまを形成して凸脈の側部の谷底のみを支持する手段が知られていたことが認められるから、このような手段を甲第1号証に転用することは当業者であれば容易に想到し得ることであると認めるのが相当である。

被請求人は甲第2号証に関して、本件特許発明の技術的課題がないと主張しているが、凸脈を有する断熱材パネルの搬送手段として上述の手段が公知であれば十分であるばかりでなく、甲第2号証における凸脈部分には発泡性材料が充填されないものであっても、甲第2号証には前記認定のように、第7図のプロファイルも表面の歪みを回避することを可能にし、発泡圧に対抗すべきものであることが記載されており、本件特許発明と同じ部分の変形防止を意図しているのであるから、本件特許発明と同様の技術的課題が開示されているというべきものである。

そして、本件特許発明における効果が特に予測し難いものであるということもできない。

以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、特許法第123条第1項第1号に該当する。

【7】よって、結論のとおり審決する。

平成6年4月21日

審判長特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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